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漫画『信長協奏曲』(石井あゆみ)

『信長協奏曲 / 石井あゆみ』連載中(2014/4時点で9巻まで刊行)[2009-, 小学館/ゲッサンコミックス]

 高校生のサブローが戦国時代にタイムスリップしてしまい、そこで自分と瓜二つな顔を持つ男と出会う。その病弱で繊細な男は織田信長であった。なんだかんだあって、サブローは本物の信長の代わりに織田信長として戦国時代に生きることになる。戦国時代にタイムスリップするという設定自体はありがちなものの、その設定の旨味を十分に活かしつつ、純粋に戦国武将たちの生きざまを描いた物語としても楽しめるマンガです。
 また、サブローは勉強が苦手だったので戦国史を全く知らないが、「信長が天下を取らないと歴史を変えてしまう!」と思い込んでサブローなりに奮闘する。戦国時代の常識も知識もなく、現代の常識で行動していくのが吉と出て成功することが多いが、周囲の人々の目には意味不明な振る舞いに映る。次々と常識を打ち破っていった"風雲児"織田信長が、その正体は勉強のできない高校生だったというのがピタリと嵌っています。

 全体的に軽めのノリで、テンポも良く、キャラの個性付けも上手なので、戦国時代に興味がない方でもすらすらと読み進められると思います。
 トンデモ設定(松永久秀も現代からタイムスリップしてきたヤクザだったり)の割には、それなりに史実に忠実に描かれており、姉川の戦いでのお市(信長=サブローを慕っている本物の信長の妹)の想いや、宇佐山城の戦での森可成の討死とその子供らの奮起、金ヶ崎崩れでの秀吉の殿戦などの戦国ドラマを堪能するも良し。幼少期にサブローにエロ本を見せられて女好きに成長してしまう家康や、信長の首と天下を狙う腹黒い忍びの者という裏の顔を持つ秀吉など、独自設定を楽しむも良し。サブローの適当ながら思いやりのある人柄と、勉強ができない割に戦の勘は冴えている織田信長としての快進撃を楽しむも良し。





 また、サブローと入れ替わった本物の信長は明智光秀(サブローからは"ミッチー"と呼ばれている)を名乗り、周囲にばれないよう覆面を被っています。知っているのはサブローのみ。彼はサブローと強い信頼関係で結ばれており、織田信長としてのサブローを常に裏で支えています。
 ――このふたりがどのように本能寺の変を迎えるのか、その場面を今から期待してしまうのです。このマンガを描き始める時点で既に作者の頭の中にはその場面に至るプロットがあると思いますが、それをあーだこーだ妄想するのも私の楽しみ方のひとつです。


新刊(第10巻)もamazonで予約受付中


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アルバム『氷山が溶けてしまう時』(アラン・ルプレスト)

Quand Auront Fondu Les Banquises / Allain Leprest [2008]

  Allain Leprestはフランスの「酔いどれ詩人」的なシャンソン歌手。
 彼は1986年にデビューアルバムをリリースし、その後もサラヴァ・レーベルで活躍していたのですが、"酔いどれ詩人"というくらいなので当然の如くアル中に。その後も脳腫瘍とか肺癌とかで死にかけていた状態から復活してリリースしたのが本作です。以前の歌声と比べて明らかにしゃがれ声になってしまいましたが、むしろそれが彼の歌には合っています。嫌という程の快楽も辛苦をも通過してきた彼のしゃがれた歌声は、若き日の歌声よりも説得力と味わいがあります。トム・ウェイツのシャンソン版のような魅力も。
 "Tr1. Les Tilleuls"や"Tr.8 Amantte Ma Jolie"などに感じられる、哀しみを通り越して達観したかのような味わいのある歌声は素直に心に響いてきます。他の曲も、様々な感情を、老成した穏やかな温もりで包んだような歌ばかりです。残念ながら国内盤を所有していないので歌詞は分からない(アルバム邦題もさっき調べて初めて知った…)のですが、現代のアルチュール・ランボーと称されるほど歌詞の評価も高いそうで、国内盤買って歌詞とお酒を味わいながら聴きたかったなぁ!

[ Tr5. Quand Auront Fondu Les Banquises ]

 このオジサンの歌をもっともっと聴きたい。ライヴで聴いたらもっと心に訴えかけられるものがあるだろうな。しかしながら、もうそれは叶わくなってしまいました。
 次作"Leprest symphonique"の制作中の2011年に、54歳にして彼は自らの命を絶ってしまったのです。





漫画『虫と歌』(市川春子)

『虫と歌 / 市川春子』全1巻 [2009,講談社/アフタヌーンKC]

 アフタヌーン四季賞が発掘した"宝石"、市川春子による短編集第1集です。第2集として『25時のバカンス』も刊行されており、そちらも素晴らしい出来。また現在アフタヌーン誌に初長編作『宝石の国』を連載中。

 線のか細い薄口の絵柄は好みが分かれるかもしれませんが、よくあるオシャレ雰囲気マンガなどでは決してない、美しさと切なさの溢れたストーリーが紡がれる上質の短編集です。触れるとキラキラと砕け散ってしまいそうな繊細な表現は、映画や小説では表現できない、市川春子のマンガでしか成立しえない作品だと思います。


 本作だけでなく以降の作品も含めて、市川春子の作品には一貫したテーマがあります。作者は、この世のあらゆるもの、草花や昆虫、深海に生きる貝などの有機物から、金属や宝石、カミナリ、未知の物質などの無機物にまで魂を与え、また"ヒト"の形と心を与えます。彼/彼女らは、人間たちと触れ合い、人間と同じように想い笑い哀しみますが、人間よりも一層真摯な愛を持っています。そして彼/彼女らの物語が迎える結末の多くは、切なくも希望の持てる結末なのです。

 収録作は「星の恋人」「ヴァイオライト」「日下兄弟」「虫と歌」の4作。いずれもアフタヌーン誌に読み切り掲載された作品です。
 「星の恋人」はひときわ綺麗に纏まっているロマンチック(?)な短編。「ヴァイオライト」では無駄なセリフや描写が極力省かれ、観念的な趣もある。「日下兄弟」の主人公は肩を壊した高校球児。他作では、セリフで語るのではなく読者に読み取らせる手法が多く取られているのに対して、この作品では登場人物たちがよく喋り、マンガらしい会話の掛け合いも楽しめる。物語としても最も一般受けしそうな作品。「虫と歌」は2006年の四季大賞を受賞したデビュー作。デビュー作にして既に作風が完成し切っている!
 最後におまけのように付いている全2ページの書下ろし「ひみつ」も、市川春子の感性が良く表れた小品です。






[ 市川春子の他の作品 ]

★関連記事(アフタヌーン四季賞出身関連)
 →漫画『アンダーカレント』(豊田徹也)
 →漫画『外天楼』(石黒正数)
 →漫画『茄子』(黒田硫黄)

アルバム『Lewis Furey』(ルイス・フューレイ)

Lewis Furey / Lewis Furey [A&M, 1975]

 異国のサーカステントで繰り広げられる狂乱、その真只中であったり、もしくは外からテント越しに映し出される幻影を見ているような曲が並んだ名盤。クラシカルな曲調にキャバレーミュージックなどの大衆音楽要素をごたごた注ぎ込んで鍋で煮詰めたような彼の音楽には不思議な魅力が漂う。クラシックの名門ジュリアード音楽院で学んだが、固い音楽に嫌気がさして中退したと知って納得。音楽的に異端なシンガーソングライター同士のレナード・コーエンと交流があるのもまた納得。

 ルイス・フューレイはカナダ人(ケベック州)のシンガーソングライターで、A&Mから発売されたこのアルバムでデビュー。ヨーロッパ的な退廃美に満ちた音楽性の通り、その後はフランスに渡り、ピエール・バルーが設立したサラヴァ・レーベルでキャロル・ロール(同じくカナダ出身でフランスで活動していた女優/歌手。後にルイス・フューレイと結婚)と共に活躍する。また、渡仏後は映画俳優や映画音楽家としても活動している。

怪しく淫靡な「Tr.1 Hustler's Tango」

「Tr.7 Lewis Is Crazy」



漫画『機動警察パトレイバー』(ゆうきまさみ)

 どうせよくあるロボット物の少年マンガでしょ!と思って読んでいない方には、一度手に取ってもらいたいマンガです。確かに序盤は少年マンガ特有のノリが強めではありますが、中盤から加速度的にストーリーが面白くなっていきます。週刊少年サンデーで連載されていたマンガですが、中盤以降に関して言えば、青年誌の方が合っていたんじゃないかと思うくらい大人でも楽しめるストーリー展開になっていきます。
 大好きなマンガなので最初に宣伝文句を書いちゃいますが、「"踊る大捜査線"に大きな影響を与えたマンガ」でもあります。実際、"踊る大捜査線"の作中にパトレイバーのオマージュ的な設定やシーンが幾つかあります。

 時代設定は当時としての近未来1998年(連載開始が1988年)、"レイバー"と呼ばれる作業用人型ロボットが、重機に代わって工事の現場などで使われることが一般化した社会が舞台です。レイバーを用いた犯罪が多発するようになったため、警視庁は警察用レイバー部隊として特車二課を発足させます。その中の特車二課第二小隊に配属された面々がこのマンガの主役です。

 この作品の大きな特徴であり魅力である点として、舞台設定がとても現実的であることが挙げられます。ガンダムみたいなロボットありきの舞台設定ではなく、作業用の大型ロボットが普及しているという以外は現実の近未来の東京が舞台となっているのです。当然、登場人物もストーリーもリアルです(少年マンガにしては)。ただ、作業用の大型ロボットが現実世界で普及すると想定しても、人型である必要性はまったくないのですが、そこだけはSF的なロマンということで!


 もうひとつの大きな魅力は、個性豊かな登場人物たちと彼らの成長や対立の物語です。第二小隊は急遽編成されたために若者ばかりのメンバー編成で個性的な面々が揃っており、彼らが成長していく過程を描いた群像劇という側面もあります。その第二小隊を率いる後藤隊長は、ノリが軽く飄々としているが昔は"カミソリ後藤"と呼ばれていた程の切れ者。後藤隊長は、もしかすると主人公(泉野明)よりも、ファンからの人気が高いキャラかもしれません。
 また、世界的巨大企業を隠れ蓑にしてレイバー犯罪を繰り返す内海も、後藤隊長に負けないくらい飄々とした男で、悪役ながらとても魅力あるキャラ付けがされています。
 後藤隊長を中心とする第二小隊と、内海の思惑、途中から第二小隊に加わる熊耳の想いとが絡み合う、終盤の緊迫したストーリーは必見です!!どうしても伝えたいことなのでもう一度書きます。終盤の緊迫したストーリーは必見です!!

⇒「ソクヨミ」にて1巻・2巻を無料で読めます!

 このパトレイバーという作品は、ゆうきまさみのマンガではあるのですが、原案はヘッドギアというグループによるものです。メンバーは、ゆうきまさみに加えて、押井守、出渕裕、高田明美、伊藤和典というアニメ界の大物揃い。マンガ連載前からアニメ版が制作されていて、OVAとして発売されました(発売はマンガ版連載開始後)。その後、特にマンガ版で人気を集めTVアニメ化もされました。
 また、押井守が監督したアニメ映画版(特に1作目)はジャパニメーションの代表作として世界レベルでの評価を得ています。そして今年、とうとう実写化されました!




 私は小学生の時からパトレイバー大好き好きオタク少年で、アニメビデオも映画も関連本もプラモデルもゲーム版も音楽テープも沢山持っていました。私はこれまでに5回の引っ越ししていているのですが、引っ越しの度に、余計な荷物をなくすためにコミックスやCDを泣く泣く廃棄したり実家に置いて行ったりしています。その中で唯、パトレイバーのコミックスだけは小学生の頃から現在まで20年以上常に手元に置いています。

 そういえば、むかしNHK-BSで「BSマンガ夜話」という面白い番組がありました。各回1作品を取り上げ、大月隆寛、夏目房之介、いしかわじゅん、岡田斗司夫らレギュラーメンバーと、その漫画のファンであるゲストタレントたちが、漫画家や評論家たちが賞賛も批判もありで議論を交わすとても面白い企画でした。
 その番組でパトレイバーが取り上げられ回がありました。10年以上前のことなのでうろ覚えなのですが、番組中でいしかわじゅん氏が、「ゆうきまさみの前作"究極超人あ~る"は80年代的な("うる星やつら"の様な)楽しければいい的な無責任なノリが嫌いだった。だけど、パトレイバーではそこを脱し、社会で責任を持つことを描けている作品になった。」「もともとこんなストーリー漫画を描ける漫画家だとは思っていなかった。ギャグ漫画とストーリー漫画の作り方は実はとても似ていて、ギャグ漫画の"究極超人あ~る"を描いている内に、ストーリー漫画の描き方が分かってきたのだろう。」ようなことを言っていました。私は"究極超人あ~る"も"うる星やつら"も好きなのですが、氏の見解にはそれはそれで成るほどなぁと納得した記憶があります。