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アルバム『氷山が溶けてしまう時』(アラン・ルプレスト)

Quand Auront Fondu Les Banquises / Allain Leprest [2008]

  Allain Leprestはフランスの「酔いどれ詩人」的なシャンソン歌手。
 彼は1986年にデビューアルバムをリリースし、その後もサラヴァ・レーベルで活躍していたのですが、"酔いどれ詩人"というくらいなので当然の如くアル中に。その後も脳腫瘍とか肺癌とかで死にかけていた状態から復活してリリースしたのが本作です。以前の歌声と比べて明らかにしゃがれ声になってしまいましたが、むしろそれが彼の歌には合っています。嫌という程の快楽も辛苦をも通過してきた彼のしゃがれた歌声は、若き日の歌声よりも説得力と味わいがあります。トム・ウェイツのシャンソン版のような魅力も。
 "Tr1. Les Tilleuls"や"Tr.8 Amantte Ma Jolie"などに感じられる、哀しみを通り越して達観したかのような味わいのある歌声は素直に心に響いてきます。他の曲も、様々な感情を、老成した穏やかな温もりで包んだような歌ばかりです。残念ながら国内盤を所有していないので歌詞は分からない(アルバム邦題もさっき調べて初めて知った…)のですが、現代のアルチュール・ランボーと称されるほど歌詞の評価も高いそうで、国内盤買って歌詞とお酒を味わいながら聴きたかったなぁ!

[ Tr5. Quand Auront Fondu Les Banquises ]

 このオジサンの歌をもっともっと聴きたい。ライヴで聴いたらもっと心に訴えかけられるものがあるだろうな。しかしながら、もうそれは叶わくなってしまいました。
 次作"Leprest symphonique"の制作中の2011年に、54歳にして彼は自らの命を絶ってしまったのです。





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アルバム『Lewis Furey』(ルイス・フューレイ)

Lewis Furey / Lewis Furey [A&M, 1975]

 異国のサーカステントで繰り広げられる狂乱、その真只中であったり、もしくは外からテント越しに映し出される幻影を見ているような曲が並んだ名盤。クラシカルな曲調にキャバレーミュージックなどの大衆音楽要素をごたごた注ぎ込んで鍋で煮詰めたような彼の音楽には不思議な魅力が漂う。クラシックの名門ジュリアード音楽院で学んだが、固い音楽に嫌気がさして中退したと知って納得。音楽的に異端なシンガーソングライター同士のレナード・コーエンと交流があるのもまた納得。

 ルイス・フューレイはカナダ人(ケベック州)のシンガーソングライターで、A&Mから発売されたこのアルバムでデビュー。ヨーロッパ的な退廃美に満ちた音楽性の通り、その後はフランスに渡り、ピエール・バルーが設立したサラヴァ・レーベルでキャロル・ロール(同じくカナダ出身でフランスで活動していた女優/歌手。後にルイス・フューレイと結婚)と共に活躍する。また、渡仏後は映画俳優や映画音楽家としても活動している。

怪しく淫靡な「Tr.1 Hustler's Tango」

「Tr.7 Lewis Is Crazy」



ミックステープ『House of Balloons』(The Weeknd)

House of Balloons / The Weeknd [XO(MIXTAPE), 2011]

 R&BシンガーのThe Weeknd(Weekendとは別モノよ)が、2011年に自身のサイトでフリーダウンロード公開したミックステープ。これが、Pitchforkを始め各方面から脚光を浴び一躍R&B/クラブシーンの期待の新星となりました。
 最近ではミックステープをフリー公開する新人アーティストや、アルバム発売前にレーベルが公式に全曲フリー公開したりと、インターネット上の無料公開によってプロモーション展開することも多くなってきました。日本ではまだまだJASRACさんや旧体質レコード会社さんが頑なに意地張っているせいで、どんどん時代から取り残されていっていますが、そのうち自業自得に陥ってざまぁになるだけ(もうなっている?)なのでまあいいか。

 で、この作品なのですが、ミックステープとはいえ話題になっただけあって相当の完成度なのです。セクシーだけど汗臭くない清潔R&Bな歌声に、近年のインディーロックやチルウェイブ、ダブステップを通過した、ややダークで洗練されたメロウグルーヴなサウンド。まさに現在進行形の感性で作られていて、R&Bというよりクラブミュージックとして聴いた方がしっくり来るかもしれないです。

[ House of Balloons / The Weeknd ]
 現在はミックステープ総合サイトのMIXTAPE MONKEYからダウンロード可能です。


"Tr.4 The Morning" ゆる~いグルーヴがめちゃくくちゃ気持イイ。


メロディアスで官能的な"Tr5. Wicked Games"


スージー&ザ・バンシーズの"Happy House"をサンプリングした"Tr.3 House Of Balloons - Glass Table Girls"


 サンプリングネタとしては他にも、ビーチ・ハウスの"Gila"をサンプリングした"Tr.8 Loft Music"や、コクトー・ツインズの"Cherry Coloured Funk"をサンプリングした"Tr.9 The Knowing"など、インディーシーンからの上手な借用が多いです。


 The Weekndは昨年(2013年)、『Kiss Land』という新作アルバムを発表しており、この『House of Balloons』より多少クラブ感が薄まって、より一般層にアピールできそうなアルバムになっていました。うまく当たると世界のメジャーシーンでもブレイクできちゃうかもな予感もあります(本人がそれを目指しているかはともかくとして)。

[ House of Balloons / The Weeknd ]




アルバム『IRM』(シャルロット・ゲンズブール)

IRM / Charlotte Gainsbourg (2009)

 ご存知セルジュ・ゲンズブールとジェーン・バーキンの愛娘で、近年は女優としての活躍が目立っているシャルロットの2009年のアルバムです。
 彼女の音楽活動としては、13歳の頃に父セルジュの名盤『Love on the Beat』(1984)収録の"Lemon Incest"でセルジュとデュエットしたところから始まり、その後1986年にはやはりセルジュのプロデュースでアルバム『Charlotte For Ever』を発表しています。これは、セルジュが監督・脚本を担当した同名のちょいとアブナイ映画(セルジュとシャルが本人役で出演している近親相関を思わせるストーリー)と併せてのリリースでした。
 その後シャルロットは女優業を優先し、音楽活動からは遠ざかっていました。映画では先程の『シャルロット・フォーエバー』以降はセルジュと絡んでいません(反面、母ジェーン・バーキンとは時々共演しています)が、音楽をやっている限りはセルジュの影が付きまとってしまうことを避けたかったのでしょうか。単に歌手より女優の方が楽しかっただけかもしれませんが、その辺りはよく分かりません。


 父セルジュを1991年に亡くした後、一流女優の地位を確立していた2006年になってシャルロットは突然音楽活動を再開して『5:55』というアルバムを発表しました。この『5:55』は、フランス語での歌がほとんどであるものの、ナイジェル・ゴッドリッチのプロデュース、作詞・作曲にエールやジャーヴィス・コッカー(Pulp)が携わっているなど、フレンチポップの名残を残しつつも現在のオルタナに接近した新感触のアルバムでした。
 その素晴らしい出来を度外視したとしても、高校生の頃に『なまいきシャルロット』で惚れて以来、シャルロットやセルジュ・ゲンズブール周りを追いかけ回していた私にとっては、シャルロットの音楽活動再開はとても嬉しいニュースでした。

 
 今回紹介するアルバムは、その次作となる2009年発表の『IRM』です。シャルロットにとっては3rdアルバムにあたる作品。
 このアルバムのプロデュースはなんとBECK!!収録曲も、ジャン=ピエール・フェルランが1970年に書いた"Le Chat du Café des Artistes"のカバー以外は全てBECKの手によるものです。
 BECKと言えば、デビュー当時からセルジュ・ゲンズブールの大ファンであることを公言しており、セルジュのPVをまねてみたり、ライブにジェーン・バーキンを招いたり、セルジュのトリビュートライブに参加したりという程なので、BECK自身としても、シャルロットをプロデュースするというのは渾身の力を持って臨んだ仕事だったのだと思います。そしてそれはこのアルバムで大成功しています。
 ベック一流の力の抜けたオルタナ感と時代に敏感なセンス、儚げだった昔のシャルロット、母ジェーンのように強い大人の女性に成長した現在のシャルロットの姿が、すべて一体となったようなアルバムに仕上がっています。

[ IRM / Charlotte Gainsbourg ]





 シングル曲の"Tr.5 Heaven Can Wait"は、これまでのBECK関連作の中でもトップクラスの曲だと思います。シャルとBECKが登場するPVも見ものですよ。


 アルバム未収録ですが、この曲を気鋭のビートメーカーNosaj Thingがリミックスしたバージョンも特設サイトからダウンロードできました。彼らしいゆらゆらビートの気持ちいい良MIXです。


 他にも、この夢の共演と言うべきアルバムに収録されている曲は、名前だけの共演作などではなく、見事に二人のセンスが融合された曲ばかりの最高のアルバムです。


アルバム『フィーリン・グルーヴィ』(ハーパーズ・ビザール)

Feelin' Groovy / Harpers Bizarre [Warner, 1967]

 A&M系やバーバンクサウンド、カート・ベッチャー&ゲイリー・アッシャーらの活躍するソフトロック黄金期が幕を開ける1967年に発表されたのハーパーズ・ビザールのデビューアルバム。ビーチ・ボーイズ『ペット・サウンズ』の翌年ですね。
 バーバンクサウンド確立前ということで、綿密なコーラスやオーケストレーションはまだ控えめで、シンプルで可愛らしいナンバーが多いのですが、それ故に返ってハーパーズ・ビザールというグループの魅力を引き出すことに成功しているアルバムだと思います。とは言え、コーラスワークや楽器の使い方には豪華アレンジャー陣の力量が垣間見れらる作品でもあります。

 プロデュースはレニー・ワロンカー。幼馴染のランディ・ニューマンや名コンビとなるヴァン・ダイク・パークスと共にワーナーレーベルでバーバンクサウンドを築き上げ、後年にはワーナーの社長にまで登りつめることになる才人です。
 このアルバムには、作曲・アレンジャーとしてランディ・ニューマン、ヴァン・ダイク・パークス、ペリー・ボトキン、レオン・ラッセルが参加しています。後の超大物ばかりで名前だけで目が眩みそうな布陣。でも当時は彼らはまだ皆、駆け出しの若手だったはず。無名の天才たちが不思議な引力に引き寄せられて集まり、大きな潮流を生み出すというのは音楽に限らず歴史の中で度々起こってきたことですが、まさにソフトロックにおけるそのような奇跡の始まりがここにあります。

[ Feelin' Groovy / Harpers Bizarre ]





 個人的には、このアルバムの中でもレオン・ラッセルの仕事ぶりに目がいきます。彼が作曲に携わった"Tr.9 I Can Hear The Darkness"なんかは、翌年のアルバム『The Secret Life Of Harpers Bizarre』に収録される"The Drifter"などのソフトロックの名曲たちと肩を並べる出来だと思います。同じく彼が作曲した"Tr.4 Raspberry Rug"は、アラブ調(?)のイントロから始まり、ハーパーズ・ビザール流の柔らかなソフトロックへ展開する素敵なナンバー。"Tr.3 Come Love"の巧みなコーラスアレンジも彼の仕業でしょうか。

 ハーパーズ・ビザールは過去の名曲を取り上げて自分たちの音楽に仕立て直すことにも積極的でした。"古き良き"オールディーズ・ナンバーの"Tr.2 Happy Talk"も、彼ららしいチアフルかつふんわりとしたナンバーに生まれ変わっています。サイモン&ガーファンクルのカバー"Tr5. The 59th Street Bridge Song (Feelin' Groovy)"も自分たちの曲にしてしまっています。
 アルバム最後の"Tr.10 Simon Smith and the Amazing Dancing Bear"も、アラン・プライス(アニマルズ初期メンバー)にランディ・ニューマンが書いた名曲で、他のミュージシャンも多くカバーしています。

"Tr5. The 59th Street Bridge Song (Feelin' Groovy)"

 ボーナストラックとして収録されている"Bye Bye Bye"は、翌年の『The Secret Life Of Harpers Bizarre』にメドレーの一部として収録されている曲のオリジナル版かな。元々何年に書かれた曲か分かりませんが、本盤のバージョンからはブリティッシュ・インヴェンションの影響も感じられ、そういえば時代的に繋がっているんだよなと妙な感慨を覚えたりしました。



        
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