忍者ブログ

漫画『虫と歌』(市川春子)

『虫と歌 / 市川春子』全1巻 [2009,講談社/アフタヌーンKC]

 アフタヌーン四季賞が発掘した"宝石"、市川春子による短編集第1集です。第2集として『25時のバカンス』も刊行されており、そちらも素晴らしい出来。また現在アフタヌーン誌に初長編作『宝石の国』を連載中。

 線のか細い薄口の絵柄は好みが分かれるかもしれませんが、よくあるオシャレ雰囲気マンガなどでは決してない、美しさと切なさの溢れたストーリーが紡がれる上質の短編集です。触れるとキラキラと砕け散ってしまいそうな繊細な表現は、映画や小説では表現できない、市川春子のマンガでしか成立しえない作品だと思います。


 本作だけでなく以降の作品も含めて、市川春子の作品には一貫したテーマがあります。作者は、この世のあらゆるもの、草花や昆虫、深海に生きる貝などの有機物から、金属や宝石、カミナリ、未知の物質などの無機物にまで魂を与え、また"ヒト"の形と心を与えます。彼/彼女らは、人間たちと触れ合い、人間と同じように想い笑い哀しみますが、人間よりも一層真摯な愛を持っています。そして彼/彼女らの物語が迎える結末の多くは、切なくも希望の持てる結末なのです。

 収録作は「星の恋人」「ヴァイオライト」「日下兄弟」「虫と歌」の4作。いずれもアフタヌーン誌に読み切り掲載された作品です。
 「星の恋人」はひときわ綺麗に纏まっているロマンチック(?)な短編。「ヴァイオライト」では無駄なセリフや描写が極力省かれ、観念的な趣もある。「日下兄弟」の主人公は肩を壊した高校球児。他作では、セリフで語るのではなく読者に読み取らせる手法が多く取られているのに対して、この作品では登場人物たちがよく喋り、マンガらしい会話の掛け合いも楽しめる。物語としても最も一般受けしそうな作品。「虫と歌」は2006年の四季大賞を受賞したデビュー作。デビュー作にして既に作風が完成し切っている!
 最後におまけのように付いている全2ページの書下ろし「ひみつ」も、市川春子の感性が良く表れた小品です。






[ 市川春子の他の作品 ]

★関連記事(アフタヌーン四季賞出身関連)
 →漫画『アンダーカレント』(豊田徹也)
 →漫画『外天楼』(石黒正数)
 →漫画『茄子』(黒田硫黄)
PR