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漫画『プラネテス』(作者:幸村誠)

 『プラネテス』はモーニング誌に2000~2004年にかけて不定期されていたSF漫画です。全4巻。SFといっても、宇宙戦争でドンガシャンとか退廃した世界でのサバイバルといったものではなく、人間がごく当たり前に宇宙に進出している未来を舞台に、淡々とした日常が描かれています。「淡々と」とは言え、作者の幸村誠は現在アフタヌーンで「ヴィンランド・サガ」というヴァイキングたちの壮大なドラマを描いているくらいで、その淡々とした日常の中にしっかりとしたドラマが織り込まれいるのも魅力のひとつ。

 主人公の「ハチマキ」君は、デブリ回収用の宇宙船に乗ってスペースデブリ(宇宙空間に漂うゴミ)を回収する宇宙掃除屋さんで、直観的に行動してしまうタイプの青年。それを抑える役割の女船長のフィー姐さんも、何かのきっかけでプツンと切れると誰にも止められない暴走タイプ。新米の同僚タナベは自分の信じることを頑なに突き通して他人の考えを受け入れられない女の子。常識人はユーリというロシア人の同僚くらい。作中にはあまり描かれていませんが、ユーリが重しとなって頑張ってるんだろうなあ。その他の人物も含め、登場人物1人1人が皆とても魅力的に動き回ります。それって漫画の面白さを決定づける、最も重要な要素のひとつだと思うんですよね。

 物語としては、彼らのデブリ回収の日々を通して、時には真剣にもうひとりの自分(自身の矛盾や恐怖が実在化した存在)と向き合い、時にはハチャメチャに暴れまくり、時には穏やかな日々を過ごしたり、時には大きな事件に巻き込まれたりと、基本的には1話完結型で描きながら、物語が徐々に進行していく形式になっています。
 読んだ方しか分からないと思いますが、第3話の最後でフィーがようやく吸えたタバコを手に、海上に浮きながら「生きてるってすばらしいね」って勝手なことを言うシーンがとても好きです。

 そして、ハチマキ君と中心とした彼らの物語には、一本貫かれたテーマが描かれています。それは「愛」!!甘ったるい愛なんかじゃありません。宇宙への愛、同僚への愛、家族への愛、自己への愛、夢への愛、愛への愛。表面的に「愛」を言葉にしちゃうのは新米タナベくらいなのですが、他の登場人物の行動や発言の裏にも様々な形の愛が現れています。希望に満ちた愛もあれば、闇に引きずり込まれそうな暗い愛も。ある場面で、宮沢賢治の詩が引用されている箇所があります。この漫画からは賢治の思想に近い愛の形を感じます。
 このプラネテスという作品、アニメ化もされているのですが、私は未だ観ていません。漫画版、アニメ版共に星雲賞(SFの権威ある賞)を受賞しており、アニメ版も評判が良さそうなので近々観てみたいと思います(DVD化されています)。



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